「この川を見てどう思う?いつものまちの見慣れた景色」

 子どもの声とともに、汚れたペットボトルが漂う川岸から始まる映像。

 セリフはこう続く。

 「それでも私はこの景色に、見慣れたくなんてなかった」

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 昨年度末、横浜市の公式YouTubeチャンネルに公開された一本の動画。地元の鶴見川の生態調査や魅力発信を通したゴミの削減など、「持続可能な鶴見川」の実現に取り組んだ鶴見小学校の児童たちが作ったものだ。

 「STGs〜持続可能な鶴見川の豊かさを目指して〜Let’sツルスイ大作戦」(通称=ツルスイ)。

 そう名付けられた児童たちの取組は、総合学習の授業にもかかわらず、2021年度の5年2組、22年度の6年1組と2年間にわたり、クラス替えを経てもなお児童の思いを受けて継続されたものだった。

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 STGsは、世界全体で取り組む持続可能な開発目標SDGsの「D」を鶴見川の「T」に変えた造語。Sustainable “Tsurumigawa” Goals(サステイナブル“ツルミガワ”ゴールズ)=持続可能な鶴見川の目標という意味だ。

 活動は総合的な学習の時間で行われた。

 それまでの学年でゴーヤの栽培やビオトープの整備など、生物や環境に触れてきた児童たち。知識や経験を生かし、「地域を取り囲む鶴見川の環境から持続可能な取組を考えたい」「地域の人たちに何かを発信し、関わった人たちを喜ばせたい」――そんな思いから始まった。

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 「危ないから近づいてはいけない」と言われ、そばにあるのに遠かった鶴見川。だからこそ興味がわいた。

 「汚いイメージだし、気にもしたことがなかった」。後に2年間取り組んだ児童が話す、当初のイメージはそれだ。

 変わったのは実際に見て、体験したからだった。

 学校から川沿いを下り、河口へ歩いた探索。道中たくさんのゴミがあった。イメージ通りだった。

 だが、川の中にクラゲやカメ、魚を見つけた。生麦の河口干潟「貝殻浜」には、驚くほどカニがいた。

 「(鶴見川では)コイくらいしか見たことなくて、生きものなんていないと思っていたのに。面白いと思った」

 児童たちの好奇心に火がついた。

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 もっと深く知ろうと、専門家の門を叩いた。川の生態調査や流域文化育成などを進める団体「鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)」。

 暴れ川だったといった歴史から、生態、水質のことなどを学んだ。

 「絶滅危惧種のうなぎやアユなど、色々な種類の生き物がいることがわかった」と目を輝かせた児童たち。

 遠かった鶴見川に近づいていった。

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 「生き物がたくさんいるのに、ごみが多いのはなぜか」

 わきあがった一つの疑問。答えは、「まちの中にごみがあるから」だった。

 鶴見川をもっと豊かな川にするために、まちのごみを減らす――そうミッションを掲げた児童たち。

 担任の早川洋一教諭は当初、不安を覚えたと明かす。

 「ごみは簡単に減らない。授業の中で目に見えて達成感を出すには難しいテーマとされている」。それでも踏み切ったのには、教師の“勘”があった。「この子たちなら大丈夫かもと感じて」

子どもたちが拾ったごみの一部

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 「一週間後には元に戻っている。全然ごみが減らなかった。意味ないんじゃないかと思った」。まちのごみ拾いを続けてきた児童がそう漏らす。

 児童たちの中には、公園に遊びに行くときなど、自主的にごみ袋を持ち、ごみ拾いが日常になっていた子どももいたという。

 減らないごみ、生きものがいることで得た感動。授業での体験から行き着いたのが、「ツルスイ」だった。

 たくさんの生きものが鶴見川にいることを知ってもらえれば、川を大切にしたくなるのではないか――そうして鶴見川水族館=ツルスイが誕生した。

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 メダカにエビにドジョウにマハゼ、チチブやガンテンイシヨウジ。

 鶴見川で自分たちが捕まえた生きものたち。さらに興味をもってもらおうと、「アイドル」ならぬ“アイギョル”グループをプロデュースした。

 生きものたちにニックネームをつけキャラクター化するなど工夫。児童作詞、早川教諭が作曲したテーマソングも作った。

 ツルスイは学校での高評価を経て、2021年11月、鶴見区役所でも実現。1階区民ホールを会場に、“アイギョル”たちの展示のほか、歴史や水質、生態といった調査結果も発表した。

 「『こんなに生きものがいるんだ』とみんな驚いてくれて、ごみのことも知ってもらえた。そこからのめり込んでいった」と振り返る児童たち。

 初めて実施した対外的な企画。この成功が、ターニングポイントとなった。

“アイギョル”グループ「TSURUMIGAWA20」

クラス替えも乗り越え 2年目も活動継続

 「半分くらいの人はごみ拾いが面倒とか言っていた」

 クラス替えでメンバーが変わった早川級の6年1組。違うテーマという選択肢もあるなか、経験した児童たちが、新たなメンバーを説得した。

 「一回干潟に行ったら、みんな楽しいってなって」

 2年目の取組は、外に出ての活動も多くなった。前年度末から協力した横浜市政策局、地元企業のナイス㈱などの“仲間”も得た。

 昨年10月には横浜市役所であった「よこはま共創博覧会」に出席。行政や企業、NPOなどが社会課題のために「共創」した事例を紹介する場で、これまでの成果を発表した。

 ツルスイも鶴見銀座商店街、LICOPA鶴見、ナイス本社ビルなどで開催。多くの人に鶴見川の魅力を伝えようと、児童たちは奔走した。

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 2月、ナイス㈱本社で、横浜市や鶴見銀座商店街、TRネットなど、これまでかかわった大人たちを交えた会議が開かれた。

 「明日を開く『YOKOHAMA会議2023』ツルスイ×ナイス株式会社Let’sツルスイ大作戦」と名付けられた円卓トークは、横浜市の公式YouTubeで生配信された。

 円卓トークは、卒業後も「継続」を望む児童たちの声をもとに実現したもの。

 “持続可能”な取組になるように道を模索するなか、年に一度、みんなで集まりイベントを実施することを決定。「鶴見STGsラボ」という団体を立ち上げ、関心のあるさまざまな人たちが参加できる仕組みも設けた。

子どもと大人が持続可能な活動方法を語り合った円卓トーク

「鶴見STGsラボ」結成 集合は春分の日に

 3月21日、第一回目となった鶴見STGsラボのイベント。鶴見小学校に集まった約50人で川沿いのごみ拾いをしながら貝殻浜を目指した。

 2年間家で飼っていたカニを「川に戻すんだ」と大事そうに抱える児童もいた。

 到着した干潟では、網を片手に慣れた様子で浅瀬に入り、TRネットのメンバーらと生きものを採取。大きな石を持ち上げ、動く生きものに一喜一憂した。

 昨年3月から協力するナイス㈱の宮川敦さんは「子どもたちの『いいまちにしよう』という熱い思いに共感した。地元企業として応援したいと思った」と話す。

 TRネット事務局長で、2年間子どもたちを指導してきた小林範和さんは「鶴見川はどんどんよくなっている。でも泳ぐにはあと一歩。まだ応援して」と児童らに協力を呼びかけた。

TRネットのメンバーらと網を手に生きもの調査を行う児童たち

「変えられる」を信じて 続く未来につなぐ思い

 21日当日も、ごみはたくさんあった。

 拾っても拾ってもなくならないごみ。川のごみは、風や雨でまちから流れついたもの。このままプラスチックごみが海へ流れ出ると、マイクロプラスチックによる海洋汚染が進むこと、2050年には魚より海洋ごみが多くなることも学んだ。

 たばこの吸殻、お菓子の袋、カップ麺の容器、ペットボトル。分析すると、ほとんどが身近なものばかり。

 ツルスイでは、実際に拾ったごみも展示。魅力だけでなく、「現実」も訴えてきた。

 「拾ったごみを楽器にして録音し、自分たちの思いを発信したらどうか」。活動に共感し、そう提案したのは、早川教諭の知人で音楽家のAkeboshiさんだった。

 そうして完成したのが、冒頭の動画だ。

展示された実際のごみ

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 「自分たちだけがごみをなくそうと思っても変わらない」

 「まちにいる一人ひとりの気持ちを変え、行動が変化しないと意味がない」

 動画には、子どもたちが体感してきた純粋な言葉が並ぶ。その後ろで鳴る金属音などは、拾ってきたごみが奏でているものだ。

 環境は変えられる 私はその言葉を信じない――と始まる最後のメッセージ。思いと決意を逆さ読みであらわし、締めくくっている。

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 21日、生きもの調査を終え、取材に応じてくれた児童たち。

 「これからも年に一回は参加する」

 集合は毎年春分の日。慣れ親しんだ鶴見川に目を向け、そう誓った。

■ツルスイ~横浜市立鶴見小学校6年1組(令和4年度)の取組~動画


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