京急鶴見駅そばにある「珈琲専門店山百合」。外観からもレトロさが漂う。一帯は、かつて料亭や芸者の置屋などがあった“三業地”と呼ばれる場所。「路地裏」となっていた近年から、ここ数年は宅地開発などもあり、山百合の後ろにもマンションがそびえる

創業半世紀 2代目が決意 店内修繕やバリアフリーに活用

 創業48年、約半世紀にわたり、まちの移り変わりを見てきた鶴見中央の喫茶店「珈琲専門店山百合」。老朽化した店内の修繕や長く要望されていたバリアフリー化などの工事費用のため、クラウドファンディングに挑戦している。

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 7月半ばからスタートした山百合のクラウドファンディング。

 第一ステップとしていた100万円の目標を3日間で突破したものの、当初よりネクストゴールと位置づけていた工事費300万円へ挑戦を継続。

 コロナ禍の2021年秋から同店を受け継ぐ2代目の慶野未来(26)さんは、「本当に驚いていて、協力に感謝したい」と早々の第一目標突破に謝意を示しつつ、「まだ工事費用は不足している」として、9月30日までの期間終了まで支援を呼びかけていく考えだ。

“喫茶愛”があふれる山百合2代目マスターの慶野さん

移ろう時代に不変の居場所を

 「自分の好きな喫茶店文化を守るのはもちろん、『好き』と言ってくれるお客さんたちの居場所を守りたい」

 それがクラウドファンディングに挑む大きな理由の一つだ。

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 先代のころから変わらずに来てくれる常連客。週に一度、千葉県鴨川から通う客もいる。

 メディアに映った店内を見て、「来てみたかった」と遠方から訪れる客たちは、帰り際「また来る」と言い残していく。

 「移り変わりの早い時代。変わらないものの大事さもある」と慶野さん。

 妊婦時代から通っていた常連客が先日、ベビーカーを押して初めて来店したとき、「山百合があり続ければ、この赤ちゃんにとってずっと残っていく思い出になると思った」。そう話す。

 自身も小さい頃から両親に連れて行かれた喫茶店。好きなものが食べられた夢のような空間。大人になっても残る原風景は、そのまま“喫茶愛”へとつながった。

どれも“年代物”だらけという店内

変わる景色に芽生えた将来の不安

 クラウドファンディングに挑戦したきっかけは、周囲の再開発だった。

 2年前、コロナ禍の2021年10月に先代マスターから受け継いだ山百合。前職は小学校教諭。まったくの“素人”から駆け抜けた1年が過ぎたころだった。

 当初、クラウドファンディングは頭にもなかったが、昨年末ごろ、周辺でマンション建設のための解体工事が相次ぎ、「山百合の将来が心配になった」と慶野さんは振り返る。

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 「揺れがひどくて、おさまるまで来ないという常連さんもいたほど。そのとき、みんなに『大丈夫?』と言われて」。

 店内を見渡すと、20年以上使い不調気味だったエアコンをはじめ、冷蔵庫、給湯器なども年代ものだった。

 一方で昭和の香り漂う店内は、手の込んだ壁の装飾など、壊したら二度と戻せないものや部品のないものも多く、養生して行う複雑な工事は見積もり時点で費用がかさんだ。

 「一度お店に入ってもらえれば、居心地がいいと思ってもらえるはずの店内。この雰囲気はなくせない」

 クラウドファンディングへの挑戦を決め、ベビーカーや高齢者でも動きやすいように、段差の解消やトイレの手すりなど、常連客から言われていたバリアフリーの要望も叶えることにした。

店内に置かれている山百合の完成模型

山百合好きを鶴見好きに リターンに独自「おさんぽマップ」

 「ただ、山百合だけが恩恵を受けたいという気持ちはない」

 クラウドファンディング実施にあたり、実は今年1月ごろから、月に一度のペースで中小企業診断士などと重ねてきた会議。アドバイスをもらいながら準備を進めてきた。

 「やるなら、お世話になった鶴見の人たちのために恩返しをしたい」と考えたリターン。

 趣味の散歩をいかし、この2年間で巡った飲食店やスポット、施設などを盛り込む「鶴見おさんぽマップ(仮称)」を作成し、すべての支援のリターン品とする予定だ。

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 現在、一件ずつマップへの掲載許可をとるなどして汗を流す慶野さんは「実際、お客さんに『近くで美味しいところは無いか』など聞かれることもある。山百合を目当てで来た人が、鶴見をもっと知ってもらえるきっかけになれば」と話す。

 そのほかリターンは、3,000円から100,000円までの支援に対し、コーヒーチケットや山百合のグラスという物品から1時間貸し切り権といった体験などを用意している。

 期間は9月30日まで。詳細・支援はプロジェクトページ(こちら)。

【珈琲専門店山百合】

■住所 横浜市鶴見区鶴見中央4−21−12

■電話 045−521−0560

■営業 11時〜19時 ※不定休(基本月曜日)


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