今日の「鶴見な人」vol.4<br /> 藤岡 直人さん(デザイナー)

大好きなまちに描く日常

藤岡 直人さんふじおか なおと 岸谷在住 42歳

デザイナーコンビ「アート工房まんまるず」として活動するデザイナー。コロナ禍、生麦駅前で月2回企画されているマルシェを商店街の一員として取りまとめる。「岸谷の水が合ったんですかね」。お祭りでなく日常に―好きなまちのために、今日も駅前に顔を出す。

ほぼ毎日、生麦マルシェの実質仕掛け人

 『今だからこそやろう』。そんな声で始まった生麦のマルシェ企画。コロナ禍の2021年1月、地域を元気にしようと、周辺の有志店主らによるテイクアウト中心のイベントだった。

 3回目から岸谷商栄会が主催となり、会員だったまんまるずの一人として、実質的な取りまとめを担うことになった。

 以来、月に2回の「生麦de日曜マルシェ」のほか、プチマルシェも開催。今ではほぼ毎日、駅前にキッチンカーが並ぶほどになった。

 「たこ焼き屋さんがちょうど1年ですね」

 取材したその日、定番で木曜日に出店しているたこ焼きのキッチンカーが初出店から1年を迎えた。

 「この前、歩いている人がたこ焼き屋さんを見て、『今日は木曜日か』って言ったんです。嬉しかった」。そう言って優しく笑う。

出店者と談笑する藤岡さん

ドタキャンが引き寄せた鶴見との縁

 大阪府豊中出身。大学進学で千葉に移り住む。もともと絵が好きだったことが高じて、印刷屋でアルバイトしながらフリーのイラストレーターとして活動。2002年のことだった。

 そんな中、趣味を通じて知り合ったのが、現在の相棒で当時からプロのイラストレーターとして働いていた小野坂潤さん。弟子入りし、デザインなどを学んだ。

 「教えてやるから来いって言われて」と冗談めかしつつ、「10歳も上なんですけどね。馬が合った」。2005年、アート工房まんまるずを立ち上げ、コンビでの活動をスタートさせた。

 鶴見に来たのは2008年。運命的な話がある。

 その頃鮫洲に住んでいたこと、小野坂さんの実家が中区であること、京急沿線で比較的相場の安いことなどを理由に、なんとなく候補に上がった鶴見。

 内見にと2人で訪れた岸谷。直前になり『男には貸せない』とまさかのドタキャン。「待ち合わせの店に置いてけぼりにされたんですよ」

 とぼとぼと歩いて戻った生麦駅までの道。ダメ元で飛び込んだ別の不動産屋。

 「(空き部屋)あるよって言われて。その日に決めました」。たまたま空いていた隣部屋。一人で住むつもりが、コンビで引っ越した。

 初めて来た鶴見のまち。縁に引き寄せられた。

 「うるさくもなく、ほどよい感じ」が、周辺の第一印象。「フレンドリーで気にかけてくれる店が多い。昼間から大人の男がうろついていたからかな」と自嘲する。

「パソコンがあればどこでも」。マルシェに出店しながら仕事をこなす

“このまち”だったからこそ

 岸谷商栄会への加盟は近くに住んでいた加盟店店主とつながったことから。

 実は同業者の中に商店街からの仕事を請け負いながらまちづくりに参加している知り合いがいた。

 「あこがれてたんですよね」。インターネットや紹介が多く、下請けだと名前も出ないことがほとんどのデザインの仕事。「こんなにどっぷり入るとは思わなかったですけど」

 岸谷はもちろん、踏切の反対側、生麦駅前通り商友会のイベントも手伝い、鶴見区内のほかのマルシェにも出店するなど、まちとの接点を増やしている。

 「人が好き、話すのも好き、でも人見知り」。言葉少なだが、人への、まちへの思いは、飲食店を巡り、他地域のイベントにも顔を出すなどの行動ににじむ。

 「変なことやっている自分を受け入れてくれた。一回住んだらホーム。他に行けない」

 ノリで作ったという頭から麦が生えた犬のキャラクター「ナマムギーヌ」、生麦伝統の奇祭・蛇も蚊もを模した「蛇も蚊もちゃん」もデザインした。

 「別のまちじゃダメだったかもしれない」。岸谷というまち、かかわった人たちへの感謝がこぼれる。

イベントではない日常風景に

 今後の夢が二つある。

 マルシェ的には音楽だ。出店者の中でギターを弾く人や歌が好きな人などがいたこともあり、開催日には自然と鳴っていた音楽。

 自身も息抜きというほど好きで、何を隠そうピアノが特技。

 開催のたび一人、また一人とパートが増える中、即席バンドでゲリラ的にライブも行うまでになった。「生麦マルシェならではのコンテンツとしてちゃんとやってみたい」

 そしてもう一つは、個人的な夢。キッチンカーで輝く人たちを見て生まれた「移動デザイン屋」だ。

 「ナマムギーヌカーを作って、生麦の宣伝もしながら」と夢がふくらむ。「夢というか目標ですかね。まずは免許取らないとですけど」とおどける。

 開始から1年半、定着してきたと感じるマルシェ。

 withコロナも進み、色々なところでイベントが再開してきた今、「お祭りというよりは、今日はどこのキッチンカーとか、マルシェがあるまちにしたいと思っていた」。

 理想はイベントではなく日常風景。 「各曜日、各店舗さんとも常連さんがついているんですよ」。嬉しそうに頬をゆるめる。

 例えば、木曜日はたこ焼きを買って帰るまち。まんまる笑顔のデザイナーが、今日もまちに出て日常をデザインする。(了)

商店街店舗前のアーケードなどに出店者が並ぶ生麦マルシェ

【生麦de日曜マルシェ】…第2・4日曜のほか、平日はプチマルシェとしてキッチンカーなどが出店。季節のイベントなども実施している。生麦駅西口すぐの岸谷商栄会店舗前や安養寺前、根本乾物店前、潮田薬局前などが会場となっている。

 


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